水神の祠と水害 - 水神の多くは川の氾濫地・土石流の発生地帯に立地

 水神とは?水害や土砂災害が起きやすい地域

水神とは水田・井戸・川・池・治水など水に関する物に対して影響力を持つ存在で、龍神、蛇神、弁財天ときに不動明王などの形で祀られています。

水神の性格は様々で、飲み水の守護神、水田や灌漑に関わる水神、水難除けや防災の神としての水神、大漁祈願や漁の安全に関わる水神、雨乞いの役割を持つ河童と関わる水神など多岐に渡ります。

東日本大震災では高台に祀られた神社や祠が津波の被害を逃れており、過去に幾度もなく押し寄せた津波から祠を守るために安全な高台に移されたとされます。水害や津波の発生時にはこういった神社に逃げ込み、祖先たちは難を逃れて来ました。特に治水に関わるスサノオノミコトを祀る神社は津波の被害が少なかったとされ、神社や祠は避難場所として防災上の役割を担っていたことが分かります。

洪水の被害が大きい場所では水害除けの神さまとして水神を祀る水神社が多くあります。堤防に囲まれた輪中集落や決壊地点にも水神社や決壊守護神として水神が祀られています。

水神の祠や神社があるということは裏を返せば、水害や土砂災害が起きやすい地域であり、過去に幾度となく水による被害を被った地域と言えます。

不動明王型の水神(「福岡県東峰村に立地する水神と災害との関連性」より)

由緒がはっきりしない水神の祠。ご神体が流されていることも

神社のように由緒がはっきりしないことが多い水神の祠。石が御神体になっているものが多く、明治の廃仏毀釈運動の時に不動明王に置き換わったものや、弁財天として祀られている御神体もあるが、いつ誰が作りどこから運ばれてきたのかについて分からないものが多いです。
九州のとある地域で行われた学術調査の結果では、水神は土石流が堆積する地域に最も多く存在し、土石流に巻き込まれて埋没する危険性のある場所に立地していることが分かりました。
そして、渓流・谷川の氾濫や土石流で流れてしまった水神の祠もありました。このことからも、水害の多い地域に水神が立地していることが分かります。石のご神体はありませんがお祭りの際に藁でカゴを作りご飯を入れて渓流に祀っている例もあります。水田に水を入れる際に豊作の願いを込めて祀る農業関連の水神もあることが分かります。



農業の水神:藁カゴにご飯を入れてお供え物にしている


祟り神としての水神は災害の具現化:木曽谷の忌み地

水神を祀る地域では川に向かって小便をすると水神に祟られるという話や、粗末に扱うと祟りがあるので酒などをお供え物を欠かさないとされます。

水害や土砂災害は大蛇の怒りに喩えられて、蛇が怒って山が崩れたときは村が水底に沈むという云い伝えや長野県木曽谷の蛇抜など江戸時代以前から蛇が土石流に関係しているというイメージがあったことがうかがえます。

水神の祠やご神体には文字記録がなく、過去にどういう災害があったのかは直接的には知ることはできません。しかし、付近に伝わる大蛇伝説や蛇にまつわる地名から過去に水害が度々起きてきたことを推測することができます。

木曾谷の蛇抜地名

長野県の木曽川の上流域である木曽谷を中心とする地域で何度も蛇抜と呼ばれる土石
流災害の被害にあってきました。後世の人々に土砂災害の痕跡を示し、防災への意識を高めるために付けられた災害地名があります。

「蛇」や「薙(なぎ)」のほか「押」という字も土砂災害に関係していることが分かります。

与川=えんまなぎ,赤なぎ沢,じゃぬけ沢

柿其=歩危,ほけ沢(あぶな洞),蛇抜沢,ジャヌケ沢,志やぬけ沢

三留野=蛇抜沢(桂洞),なぎ,蛇抜ヶ沢,蛇抜沢,
ないの沢(梛野沢),梛野,ナキノ舟ト(薙の舟渡),歩危(大ぼけ),クヅレ

妻籠=蛇石橋,蛇石,与の洞(堀切沢),さんけ沢(三居沢),大ガレ(大なぎ),大
崖(大山沢・押出),下り谷(埋った下り谷),押出(押手),押出沢,押出前山

蘭=はくなぎ,大なぎ,ジャヌケ

広瀬=蛇抜沢,とおなぎ(とおない)

田立=孫なぎ,古なぎ

参考:J. of the Jpn. Landslide Soc., Vol.55, No.6 280 (2018

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