尾ケ崎村はをさき狐の本場と噂されていた。
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| 蚕を盗むをさき狐 |
北武蔵一帯の山村ではいまだにこのをさき狐のことを信じていて、この狐の住んでいる家ををさき持ちと言って忌避する者が多い。
この狐は昔、九尾の狐の尾の一本が飛んできて、この狐になったそうだが、この狐には不思議な幻術があって常にその形を現さない。
大変偏った自己主義の狐で、主人の心が気に入ると金銀米穀、その他なんでも心のままに運んで来るので、をさき持ちの家はたちまち大金持ちになると伝えられる。
しかし、をさき持ちの家は普通の家から縁組されるのを忌まれているので、縁組はをさき持ち同士で行う。もし普通の家がをさき持ちの家と縁組したり、あるいは地面家作(土地・家屋)などを買い取るなどするとたちまちをさき持ちになってしまうと言われている(無論全くの妄信で、このような憑き物など存在するがはずがない)。
そして、をさき持ちの本家本元は、このをがさき村であったそうである。
九尾の狐の一尾に飛び込まれた家では、初めは可愛らしかったので何んとなしに狐を飼っていたのであるが、何時の間にか家の物がだんだんと増えていく。
これは怪しい、いろいろな物が増えていくが、誰が持ってきたのであろうか?と気を付けているとどうも狐があやしい。狐がどこからか色々と物を持ってくるのだが、結局家の財産が増えるのが喜ばれて、一層狐を可愛がっていると、いつの間にか子狐が生まれて、段々に稼ぎが多くなり、その家は大金持ちになった。
ところが近在の家々では、近頃家の物が無くなるので不思議に思っており、誰が盗んでいくのかとその正体を見たいものだと考えていたが、どうにも分からない。
折に、養蚕の時期になると、せっかく大きくした蚕が方々で居なくなった。よりより相談しあって蚕に紅をつけてどこへどう処分されていくのか見張ることにした。
ところがいつの間にか紅をつけた蚕がいなくなった。どこへ行ったかということに村の人々は注目することになった。
するとをさきに飛び込まれた家では近頃大層蚕が増えたという話しがあり、調べに行くと紅が付いた蚕が飼われている。
しかしどうしてここへ来たのか不思議に思われたのでようたく村の人々はこのをさき持ちの家に注目するようになった。
すると時々、不思議な狐の影がさすという噂が立ち、ようやく狐の仕業であることが判明した。
をさき持ちの家の者は村人から大層憎まれたので、いつごろからか尾ケ崎村を出て他方の人になったという。
こうしてをさき狐は北武蔵から影のように繁殖して、埼玉群馬の地方にだんだんと増えていって、現今でも方々のをさき持ちがこれをこれを飼育していると伝えられる。
(日本伝説叢書 北武蔵の巻)

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