カネ玉(多摩市落合・関戸)

  


昔、ある家にカネ玉が落ちたという。カネ玉は人魂や狐火とは異なりものすごいスピードで落ちてくるという。大きな音がしてある家に落ちたのだが、朝になって屋根を見ても跡は残っているが何も見当たらなかった。カネ玉が落ちた家では作物が良く取れて裕福になったという。


カネ玉やカガミ玉と呼ばれるものは人魂より大きくて真っ赤に光るものだという。家族が亡くなったときにパラパラと屋敷内の祠に落ちたという話もある。カネ玉が落ちた家は幸福が舞い込むと言われている。

(多摩市史より)


[解説]

鳥山石燕の妖怪画集に下記の金玉の記述がある。

金だまは金気也 唐詩に 不貪夜識金銀気といへり 又論語にも富貴在天(ふうきてんにあり)と見えたり 人善事を成せば天より福をあたふる事 必然の理也

 

鳥山石燕今昔画図続百鬼』より「金霊」

『不貪夜識金銀気』は、中国唐代の詩集『唐詩選』に収められている杜甫の詩からの一節で、欲を持たない者こそ、埋蔵された金銀から立ち上る気配を見抜くことができる、という意味です。また、『富貴在天』は文中にも記されているように、中国の儒教経典『論語』からの引用で、富や地位は天命によるものであるとされています。これらのことから、石燕が描いた金霊の絵は、実際に金霊が家に現れるというよりも、欲を持たず善行を積む者に福が訪れることを象徴していると解釈されています。

『怪談摸摸夢字彙』に登場する「金玉」―北尾重政が描いたものです。同時期には複数の草双紙でも金霊が描かれていますが、いずれも金銭が空を飛ぶ姿で表現されています。山東京伝が1803年(享和3年)に著した草双紙『怪談摸摸夢字彙』では、「金玉」という名で登場し、正直者のもとに飛び込み、欲深くなると去っていくものとして描かれています。

昭和以降の妖怪に関する文献では、漫画家・水木しげるらによって、金霊が訪れた家は繁栄し、去ると家が衰えると解釈されています。水木自身も幼少期に金霊を目撃したと語っており、彼によれば、金霊の姿は轟音を伴い、巨大な茶色の十円硬貨のようなものが空を飛んでいたそうです。

また、東京都青梅市のある民家でも金霊が出現したという目撃例があり、家の裏の林にぼんやりと姿を現すことがあるとされています。この家の人々には恐れられていますが、金霊を見ることができれば幸運をもたらすといわれています。


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